夕焼け。
大きな地震の後
ベンチが倒れて野菜苗が散らばった
ハウスの中をすり抜けて
私は家に急いだ。
そう
ちょうどこんな夕暮れだった。
綺麗な夕焼け。
家に着くと
隠れていた猫達が部屋に集まってきた。
みんな無事だった。
散らばった食器をそのままにして
私は自転車で家の周りを走った。
夕焼けの光が眩しいのに
なぜか雨が降り出した。
その雨に当たって
私は恐ろしい事が起きたのだと気がついた。
どちらが先に渡ればいいのかわからない
交差点。
迷いながら走る車。
真っ暗な街。
真っ暗な部屋。
あの時
暗闇の心細さを知った。
当たり前の日が
当たり前ではないのだと知らされた。
今 仕事から帰って
車から降りると夕焼けだった。
あの時と同じだね。
違うのは
いつもの生活に戻った事だ。
夕焼けの中を帰る子供達。
親子を乗せた自転車。
みんな
当たり前の家路を急ぐ。
もうじき日が沈む。
あちこちに明かりが灯る。
あの時
生かされたのは奇跡だ。
だから
何があっても生きて行かなきゃ。
夕焼けを見ながら
ふと思い出した。
3.11の日の事を。
今日も私は生きている。
そう
あの人の分も生きるんだ。