hanakosaanのブログ

猫と暮らす日々を気ままに書いてます。

ピリオド。

こんばんわ。hanakoです。

 

 暖かい穏やかな1日でした。

 

 仕事を終えて家に帰り

 夜 テレビをつけたら。

 

 沢尻エリカ逮捕のニュース。

 

 別に.....。

 沢尻エリカに興味はありませんが。

 

 薬物所持で逮捕の見出しを見て

 思い出した事がある。

 

 叔母の会社の事務を手伝っていた時

 新しい社員が入ってきた。

 

 30代半ばくらいの男性。

 東京から移転してきたと話していた。

 

 叔父である社長は

 トクさんとあだ名をつけた。

 

 トクさんは熱心に仕事をしていた。

 会社を休む事もなく朝は1番早く出社した。

 

 だけど人見知りなのか

 昼休みはみんなと交わらず

 芝生に座ってひとりで煙草を吸っていた。

 

 忘年会にも新年会にも出なかった。

 ひとりが好きなおとなしいひとなのだと

 そのうち誰も誘わなくなった。

 

 だけど

 会社のみんながトクさんの事が好きだった。

 

 

 1度だけ私はトクさんと話した事がある。

 

 東京出身同志なので

 生まれた街の話をしたのだ。

 

 トクさんはなつかしそうに

 幼い頃遊んだ下町の話をしてくれた。

 

  楽しかったなぁ。

  あの頃が1番しあわせだった。

 

 最悪の思い出しかない私は

 穏やかな顔をして昔話を語る

 トクさんがうらやましかった。

 

 トクさんが横を向いた時

 トクさんと目があった。

 

 いつもは絶対誰とも目を合わせない。

 私も初めてトクさんの顔をまじまじ見た。

 

 笑い顔の目は目尻が下がって

 優しそうな目だった。

 

 だけど

 瞳の奥には悲しみがあった。

 

 私と同じ

 諦めた悲しみがあった。

 

 

 トクさんが会社に勤め始めて1年が経った頃

 朝 仕事場の掃除をしていると

 外が騒がしくなった。

 

 駐車場に出てみると

 数人の男性がトクさんを押さえつけていた。

 警察の関係者だとすぐにわかった。

 

 トクさんは車に乗せられ

 車が駐車場を出ようとした時。

 

  トク! トク!

  戻ってこいよ! トク!

 

 社長が車の後部にいたトクさんに叫んだ。

 

 トクさんは社長に深々と頭を下げた。

 その時社長と一緒にいた私と目があった。

 

 車は駐車場を出ていった。

 見えなくなるまで社長は車を見ていた。

 

 隣にいた私に社長が言った

 

  トク 麻薬の売人だったんだよ。

  東京から逃げて来てたんだ。

 

 警察の手がまわりはじめていた事に

 気がついたのだろう

 数日前から会社を辞めさせてくれと言って

 いたらしい。

 

 社長はトクさんを引き留めていた。

 行く所がないトクさんが心配だったからだ。

 

 逮捕される前日

 刑事が社長の元へやってきて

 社長は全ての事情を知った。

 

  明日も来いよ待ってるからな。

  仕事に来いよ。

 

 刑事が来る前に

 社長は仕事を終えたトクさんにそう言った。

 

 返事もせずトクさんは帰って行ったそうだ。

 

 次の日の朝刑事が張り込む事を

 社長は刑事に硬く口止めされ

 逃がしたら罪になる事を強く言われていた。

 だから

 誰も何も知らなかった。

 

  俺 トクが逃げればいいと思った。

  仕事来いよなんて言わなければよかった。

 

 社長の声が涙声だった。

 

 トクさん

 わかってたんだよ。

 昨日の夜のうちに姿を消す事だって出来たよ。

 

 悲しい目。

 だけど どこかホッとした目。

 

 だって

 しっかり私の顔を見たもの。

 オドオドしたいつものトクさんじゃなかった。

 

 トクさん

 ピリオド打つ事にしたんだよ。

 ひとの目が見られないウソの生活に。

 

 

 しばらくして

 トクさんの奥さんが会社に挨拶に来た。

 奥さんもトクさんの裏の顔を知らなかった。

 

  母親の入院費を作るために若い頃

  売人になったらしいです。

  そのまま抜けられなくなってしまって

  ズルズルと続けていたそうです。

 

 そう話してくれた。 

 トクさんが帰ってくるまで待つと言っていた。

 

 トクさん

 こんなにいい奥さんを悲しませたんだよ。

 

 何が理由であれ

 トクさんのやった事は間違いだ。

 不幸なひとをたくさん作った。

 

 何よりも

 自分を1番悲しませた。

 たった1度の人生を黒く塗りつぶしてしまった。

 

 トクさんの刑期は思ったよりも長かった。

 それが

 トクさんのやった事の重さだった。

 

 刑期を終えても

 トクさんは会社には戻って来なかった。

 

 社長も数年前亡くなった。

 

 あれから随分時が経ったけれど

 薬物の話を聞くと

 トクさんの事を思い出す。

 

 どこかで元気に

 奥さんとしあわせに暮らしているのだろうか。

 

 

 まっすぐに前を向いて

 あの笑顔で生きていてほしい。